鳩山民主党政権が発足し、自民党政権とは異なる政権運用を行っており、
その政治姿勢は評価できるものであるが、日本を覆う黒い雲はあまりにも大
きくそれを吹き飛ばすにはほど遠い。
少子高齢化の進展や財政危機が、国民に国と自分の将来への不安感をあおり、
いつまでも回復しない景気とそれに伴う失業の増加や賃金の低下が国民生活
を苦しめている。
この状況を脱するのはそう簡単でない。
日本経済を回復させるには、外需だけではなく、強い内需が必要であるが。
1.不況で国民の可処分所得は減少し消費が増えない。
2.将来や老後への不安があり、国民は貯蓄を消費に回せない。
3.公共投資で内需拡大を図っても財源がなく、増税が必要になり、結果とし
て内需を縮小させる。
4.金融緩和でデフレ解消を図っても、資金は海外に投資され国内で活用され
ない。
5.法人減税をおこなっても、企業は海外に投資し、国内に投資しない。
まさに悪循環である。これをどのように克服すべきか。
日本の歴史の中に一つ参考になる例がある。
戦後すぐの日本経済である。
一時小康状態にあった物価は昭和21年秋再び猛烈な上昇傾向を示し初めた。
戦後の工業原材料の輸入途絶という状況の中で、生活物資の確保とインフレ
阻止のため。原材料は大部分消費財生産部門に投入せざるをえず、そのため、
政府や民間の手持ち原材料のストックが枯渇し、それが生産性を低下させ、
インフレを高進するという悪循環に陥っていた。
当時、生産拡大への最大の障害は石炭供給の不足であり、縮小再生産から脱
出するためには日本が唯一自給できる資源である石炭の増産を行うことが最
優先された。しかし、石炭増産のためには鉄鋼を増産し、荒廃した石炭産業
の設備を整備しなければならなかった。
つまり、石炭の増産にはまず鉄鋼の増産が必要であり、鉄鋼の増産には石炭
の増産が必要であるという関係が生じていた。当然外貨も無く海外からの物
資の輸入も難しい時代であった。
この問題を解決したのが、有沢広巳東大教授の提案により、政府の公式政策
として実施された傾斜生産方式である。
傾斜生産方式というのは、まず製鉄用の重油、コークス等を重点的に鉄鋼部
門に投入して鉄鋼を増産し、それを石炭部門に集中的に投入し、次ぎに増産
された石炭を鉄鋼業に投入する。こうして相互循環的に石炭、鉄鋼を増産し
その成果を段階的に他の基礎産業部門にも回すというものであった。
ところが、敗戦国日本には資材を輸入しようにも、外貨もないし信用もない。
だからこそ、解決不能と思われていたのである。
しかし、当時の吉田内閣は緊急資材の輸入許可を占領軍に懇請し、ようやく
重油、瀝青炭、コークスの輸入が認められた。
しかし、資材だけでは傾斜生産方式を開始することはできない。傾斜生産
には当然資金面における傾斜も必要になってくる。ところがこの当時の金
融機関には融資を行う余裕がなかった。
そこで、特別の金融業務を実施するために復興金融公庫を設立した。復興
金融公庫は石炭、電力、肥料、鉄鋼などの重点産業向けに融資を実行したが、
その金額は昭和22年度ではこの年の全国銀行の貸付総額を上回る規模であ
った。
しかし当時、民間に資金の余剰がないため、その資金の大部分を復金債の発
行に仰ぎそれを日銀が引き受ける形で調達せざるをえなかった。
結果はどうなったかというと、傾斜生産方式は成功し、日本の生産設備は整備
され、原材料は備蓄され、食料品の生産能力も拡大し、後の朝鮮戦争で日本
が経済発展するための基盤になった。
しかし、インフレ克服という目的は達成できず、むしろインフレを激化させた。
だが、インフレの性質は生産設備と物資不足による克服不能のインフレから
制御可能な金融インフレに変化した。そしてその後金融インフレは克服され
たことは歴史の通りである。
今日の日本の状況の最大の問題は国内の需要の低迷である。これを解決する
方法はGDPの最大構成要素である個人消費を増やす以外にはない。
税金を使用することなく、国民に所得を移転することが有効である。
今の民主党の政策で言えば、配偶者控除や扶養控除を廃止することなく、政
府紙幣を発行し子供手当を支払うことも有効な方法である。
子供手当は5兆円ほどであり、20年実施しても総額は100兆円に過ぎず、日本
のマネーサプライの規模と比較しほとんど問題にならない。
日本の内需が拡大し、将来的にも拡大が期待されれば、国内への投資も増え
雇用の増加も期待される。そうなれば海外企業の進出も期待でき、悪循環か
ら好循環への転換も期待できる。
戦後の政府は、全国の銀行の貸出よりも多額の貸出を行う機関を設立し、思
い切った政策で危機を乗り越えた。
民主党政府も、金融秩序や財政健全化などといった常識にとらわれることな
く、100年に一度の思い切った政策を取らないとこの危機を乗り切ることは
できない。
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